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世界経済史はヨーロッパ諸国が中心になってつくられてきたと考えている人が多かったがそうではない。
ローマ帝国が滅んだ後はイスラム世界の強い影響下にあったことを知っていますか？
中世に栄えたイスラム世界は非常に合理的で先進的な社会を作っていた。
メッカの商人だったマホメットがイスラム教を開き、その信仰は瞬く間に広まった。
ただ、急激に勢力を拡大出来たのはなぜか？
非常に説得力のある教義を持っていたことなど、いくつも要因がある。
大きな要因の一つには減税政策だ。
マホメット時代はローマ帝国が滅亡しようとしていた時期とほぼ重なる。
この時代、旧ローマ帝国の領民たちは重税に苦しんでいた。
当時、人頭税（人ひとり当たりに課す税）と土地税（土地の生産力を示す単位によって課す税）が課せられていた。
ローマ帝国の住民はほとんどがキリスト教徒だった。
そしてローマ帝国は、キリスト教の教会と結びつくことで過酷な税の徴収を行っていた。
そのため、キリスト教徒であれば過酷な税の徴収からは逃れられないようなシステムになっていたのだ。
そこでマホメットは、「イスラム教徒になれば人頭税を免除する」と呼びかけたのだ。
人頭税で苦しめられていたキリスト教徒たちはこぞってイスラム教徒になっていった。
イスラム帝国の徴税業務は、征服地においても寛大なものだった。
征服前のエジプトでは土地税、金貨または銀貨で納めなければならなかった。
イスラム帝国ではそれを金貨、銀貨に限らず領民の都合のいいもの（穀物など）で納めればいいことにした。
おまけに、イスラム教徒がちょっとでも家畜の放牧などで使用した土地は、土地税を免除された。
また、人頭税は異教徒の商人だけに課せられるとし、イスラム教徒や農民には課せられなかった。
異教徒の商人も不景気のときは免除された。
イスラム帝国の徴税業務は、「彼らのところに行ったら、その財産を没収するようなことはするな。
土地税の不足にあてるために彼らの持ち物を売り払うようなことはするな。税金はあくまで
余りからだけ取るように。もし私の命令に従わなかったら神はお前を罰するだろう。」
イスラム教徒になろうとしない者にも決して手荒なことはしなかった。
キリスト教徒、ユダヤ教徒は「啓典の民」として改宗の強制はされなかった。
イスラム帝国が厳しく改宗を迫ったのは「啓典の民」以外の「多神教」の者たちなのだ。
啓典の民（けいてんのたみ、アラビア語表記：أهل الكتاب, アフル・アル・キターブ）とは、イスラームに屈服し、厳しい制約と差別を受け入れる代わりに、イスラーム国家（イスラム世界）に居住することを許される異教徒を指す言葉である。
wikipediaより引用
キリスト教徒、ユダヤ教徒は「人頭税を納めること」「イスラム教徒の男性を打たないこと」
「イスラム教徒の旅人を親切にもてなすこと」などを守っていればイスラム帝国内でも自由に安全に生活できた。
しかも、納める税は以前の支配者よりとても安かった。
要するにどんな人でも税金が安かった。
イスラム帝国は、占領地から撤退するときには税の還付まで行っている。
「わが国は、諸君の安全に責任を持てなくなったので、保護の代償である人頭税を還付する」として
すでに納められた人頭税の全額が還付されたのである。
このことが住民たちは素晴らしいと感激し、攻め込んでくるローマ軍に敵意を抱いた。
こういったことから見落とされがちだがイスラム帝国が急激に勢力を伸ばした背景には
温かい税務行政があるわけだ。そんな中でマホメットの死後は急速に衰え、分裂してしまう。
ここで衰えたのにも税金が大きく関係している。
マホメット以降の指導者たちに代わってから突如として厳しい状況になったのには理由がある。
それは税や財政等のファイナンスに詳しくなかったため、軍人や役人を下請けにし、徴収を行わせてしまったからだ。
ということは、以前にも触れたところの現象が起こるわけだ。
古代エジプト・古代ローマで起こった現象、つまり地方の有力者が私腹を肥やし、
中央政府にはお金が入ってこなくなるという現象が起きてしまう。
詳しく知りたい方はこちらの記事を御覧ください。ブログ記事を見る。
地方長官の中には勝手に人頭税を引き上げて税収を増やすとする者も出てきた。
また、イスラム帝国内の指導者の中には、税収不足を解消するために他の宗教からイスラム教に改宗した
者にも人頭税を課そうとする者も現れた。
そうなると必然的に中央政府の力が衰え、イスラム帝国の求心力が下がっていく。
地方の有力者たちがそれぞれの地域で動くことになる。
こうして、イスラム帝国は分裂していったのだ。
どうだろう、歴史を紐解くのは面白く感じてきたのではないだろうか？
知識を取り入れることが面白い・楽しいといった感覚が出てきた人は最高に良い方向に向かっていると
考えてもらって良い。学校教育では勉強を途中で諦めてしまったり、妥協したりすることがあったとしても大人の勉強として世界史に触れる。触れる視点を変える。知識の取り入れ方を変える。教わる人を代える。ちょっとした変化で人生は変わる「きっかけ」になることを私は知っています。
まだまだ面白いことが沢山ある。
脱線してしまったが続きを。
中世の世界経済にはイスラム世界の他にもう一つの強力な勢力が現れていた。
モンゴル高原に出現したモンゴル帝国だ。
彼らは圧倒的に強力な騎馬軍団を駆使して、瞬く間にユーラシア大陸を制圧し
中国、中央アジア、中東、東ヨーロッパにまたがる大帝国を築きあげた。
モンゴル帝国が急拡大した理由は、その戦闘能力だ。
遊牧民というのはもともと戦闘能力が高い民族だった。
馬を乗りこなし、集団で一気に攻める。
中国に万里の長城が作られたのもこれらの遊牧民たちの侵入を防ぐのが大きな目的だったのだ。
だが彼らは部族ごとに分散していたため、それまでの歴史の中では、強大な軍事力の割には
それほどの脅威にはなっていなかった。
その乱立した部族を統一し、一つの国家にしたのがチンギス・ハーンだ。
学校の教科書でも聞いたことや見たことがあるかもしれない。
もともと戦闘能力の高い民族が一致団結したのだ。強い国になるに決まっている。
やはり、周辺の国々を蹴散らし、あっという間にアジアのみならずヨーロッパの一部を手中に収めた。
少し視点を変えた見方でヨーロッパ目線では、モンゴルの征服は「偶発的な事故」のような扱いを
受けることが多い。
だがモンゴル帝国は非常に先進的な国家システムを持ち、世界の経済、金融史に大きな影響を与えたのだ。
この国の特徴は、「柔軟性」だった。
彼らが素晴らしいのは、行政機構、文化などの面で中国、ヨーロッパ、イスラムなどにおくれをとっていたことをちゃんと理解して受け止めていたこと。
そのため、自分たちの文化を占領地に押し付けるのではなく、占領地の文化を容認し、積極的に
取り入れるという政策をとった。
結果的に先進的な文化を一つに集積することになったというわけだ。
それは、ユーラシア大陸全体に様々な恩恵をもたらした。
文化交流が一気に進んだ。
モンゴル帝国は、「土地」に対する執着がほとんどなかった。
農耕をあまり行わないモンゴル民族たちは、新しい農作地に入植したり、新しい農地を獲得したりして
農業経営を拡大しようという発想は持たなかった。
だから占領した土地にモンゴル人たちがドシドシ入ってくるようなことはほぼなく、
税さえ払っていれば、占領地の人々は以前と同じ生活を送ることができたのだ。
この柔軟さのある政策と同時に敵地を攻略する際、激しく抵抗する都市に対しては徹底的に破壊と虐殺を行った。
「抵抗するとどんな目に遭うのか」ということを、敵に知らしめるためである。
そのため、戦う前に下る国も後を絶たなかった。そして、戦う前に幸福する者たちには
寛大な処遇を行ったのである。
占領政策にも同様のことが言えた。
モンゴル軍は、占領地に最低限度の駐留軍しか置いておかず、占領政策は緩やかなものだった。
が、住民が駐留軍に対して危害を加えたりすることがあれば本隊を派遣し、徹底的な弾圧を加えた。
モンゴル帝国は、宗教面での関心がほとんどなかったことも幸いした。
当時はヨーロッパや中近東は、イスラム教勢力とキリスト教勢力の宗教対立が非常に激しかった。
しかし、それにはまったく介入せず、特定の宗教を弾圧するようなこともほとんどなかった。
そのため、モンゴル帝国の占領地の人々は、比較的安心してモンゴル帝国の支配を受け入れることができたのである。中央アジアからイラン高原にまたがるホラズム・シャー朝に侵攻し滅ぼした。
イスラム系の官僚を大量に登用し、イスラム文化の吸収に努めた。
経済についても、イスラム系商人を徹底的に利用した。
「オルトク」と呼ばれる商人集団をつくって、大規模な交易活動を行っていた。
モンゴル帝国は、この「オルトク」を承認した。
更に王族たちは、保有している銀を「オルトク」に貸し与えた。
イコール今でいうところの投資（融資）だ。
モンゴル帝国が建設した陸路、海路の施設を優先して使用できた。そして
交易で得た利益をモンゴルの王族たちに還元したのである。
フビライハーンの時代に帝国内での関税を一元化した。
それまでは、貿易品が各都市の港、関門などを通るごとに関税が課せられていた。
それをフビライハーンは売却地で一回だけ払えばよいことにしたのだ。
その税率も3.3%と決して高くなかった。
この時代、ヨーロッパ、中近東、東南アジア、中国にまたがる広大な地域において
自由な交易が行われた。その結果として世界的な流通革命が起きている。
ヨーロッパとアジアの交易が盛んになるのは、モンゴル帝国以降のことなのである。
マルコ・ポーロ「東方見聞録」は、モンゴル帝国時代のユーラシア大陸旅行記である。
イタリアの商人の子に生まれたマルコ・ポーロは、ジェノバから中近東、中央アジア、東南アジア、中国までの長旅をしている。
このような旅が可能だったのは、モンゴル帝国が広大な地域で治安を維持していたということであり、
商人が自由に行き来できる状況があったということである。
先進的な経済政策をとり、世界貿易の発展をもたらしたモンゴル帝国だがその繁栄は100年しか持たなかった。
理由は諸々あるが国家運営の経験が浅かったことが大きかった。
一気に勢力を拡大したため、時間をかけて強固な政権システムをつくっていくことが難しかった。
そのため、強力な指導者、チンギスハーンやフビライハーンが死んだ後はまとまらずに分裂してしまったのだ。
日本の豊臣家が長く持たなかったのと似ているかもしれない。
モンゴル帝国が衰退したあと、世界経済で強い影響力を持つようになったのはまたもやイスラム世界である。
初期イスラム帝国の性質を色濃く受け継いだオスマントルコという大帝国が誕生した。
トルコ付近のオスマンという小さな豪族から発展してできた国家である。
ビザンツ帝国の首都コンスタンチノープルも攻略し、ローマ帝国の末裔を根絶やした。
驚愕だが衰えていたとはいえ、ローマ帝国の末裔でありキリスト教世界の中心にあった国だからだ。
その後、バルカン半島に進出し、エジプトのマムルーク朝を支配下に置いた。
全盛期には現在のウクライナなどの東ヨーロッパからアラブ全体、西アジア、西アフリカにまで
及ぶ大帝国となっていた。現在の中近東全域はオスマントルコの支配下だったということだ。
今教わる世界史というのは、西欧からの視点で描かれている。
だから、オスマントルコについては世界史の中であまり語られることはない。
しかし、中世から近代においてオスマントルコは世界に大きな影響を与えた。
世界経済の中心的な存在だったとさえいえる。
西欧の大航海時代というのもこの国の存在が大きい。
なぜなら西欧諸国が危険を顧みず、大航海を始めたのは地中海を支配されているため
オスマントルコを避けて、アジアと交易できるルートを開拓しようとしたのが
そもそもの始まりなのだ。
オスマントルコが栄えた要因の一つは、優れた税システムだった。
不完全ながら「中央集権制度」が整えられていた。
中世の西欧諸国というのは、そのほとんどが「封建制度」だった。
封建制度というんは「一応、国王などが統治しているものの、国の大半は貴族や豪族などが支配し、
国王はその束ね役に過ぎない。」という支配形態である。
西欧に限らず当時の世界のほとんどはこの制度だった。
国王たちが実際に支配している土地（徴税権を持つ土地）は、国のごく一部だった。
そのため、中世の西欧の国王たちは慢性的に財源不足だった。
債務不履行を起こした国王も数多くいる。
しかし、オスマン・トルコではそうではなかった。原則として国のすべての地域に中央政府が徴税権を持っていた。
約３０の州があり、これらの州には２種類があった。
一つは、ティマール型と呼ばれるもの。オスマン帝国が派遣した官僚たちによって徴税、行政が行われていた。
３２州のうち２３州はこの型だ。
もう一つは、サルヤーネ型と呼ばれるもので「自治州」に相当するもので帝国政府は総督を派遣し、軍も駐留させていたが
行政などは現地の制度によって行われていた。そして、一定の金額を税として中央政府に送る。ということになっていた。
３２州のうち９州がこのサルヤーネ型だった。
オスマントルコが強大だったのは、この「中央集権制」が大きくものを言っていたからだといえる。
この制度が進んでいたため、政府は強力な軍を持つことができたということだ。
国中から税金を集め、その資金で武器で整え、常備軍を養うのだ。
当時から職業兵士として日頃から戦争の訓練をおこなっていた。副業とまでは言わないが、戦争のときに
かき集められることがほとんどだったのにも関わらず、この方法によって大領域を支配していたのだ。
領土の広さはもちろんだが交易の大切な地を押さえていたことも繁栄の要因になった。
当時の東西貿易は、中国、中央アジアを経てヨーロッパに至る陸路（いわゆるシルクロード）と東南アジアからマラッカ海峡を経て、ペルシャ湾に
上陸する会場ルートで行われていた。
他にもいくつかルートはあったが、もっとも安全で採算の取れるルートはこの二つだった。
この二つのルートの中央ターミナルともいえる都市が、オスマントルコの首都コンスタンチノープルだった。
そのため、ロシアなどの北からは高価な黒てんの毛皮や琥珀、ウクライナからは穀物、ヨーロッパからは銀、中国から陶磁器、盗難アジアから
香料といった様々な物品が集積する世界貿易の中心地となった。
さらに、地中海だけではなく黒海も押さえていた。
当時の交通技術ではヨーロッパ諸国がオスマントルコを経ずしてアジアと交易するのはほぼ不可能だった。
だからオスマントルコはヨーロッパ・アジア間の交易を司っていたのである。
当時のイスラム商人は、その後の世界経済に大きな影響を与えている。
その一つは、アラビア数字である。
それまでヨーロッパではローマ数字が使われていた。
ただ、ローマ数字では数が大きくなってくると「X」や「I」が複雑に表記されて間違いが起きやすい。そのため、金銭の記録には限界があった。
アラビア数字をイタリアの商人たちが金銭や取引記録に用いるようになると瞬く間に普及した。
また現在会計報告基準になっている個人事業主やサラリーマンのお金を稼ぐ金額が２０万円（利益）の場合などに行う、
青色確定申告の際に使われる「複式簿記」もイスラム商人たちが始めたものなのだ。
念のために複式簿記というのは、売り上げや経費などを記録する「損益計算書」と資産や負債などを記録する「貸借対照表」の二つの
記録からなる記帳法のことである。
商売の記録を、「当期の損益」と「当期の資産の増減」の二面から分析できるため、より確かな会計状況の把握が可能となる。
この複式簿記の成り立ちには諸説あるがイスラム商人が基本的なものを編み出し、それを北イタリアの商人が
ヨーロッパに普及させたというのが一般的な見方となっている。
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